蒼夏の螺旋 “秋色秋声”
      
*剣豪BD記念SSです。DLFですので、よろしければお持ち下さい。



 さすがに十一月ともなると、朝晩は薄着だと ぶるるって寒さを感じるくらいの気候になって来てて。つい先週辺りまでは羽毛のお布団を“暑いよぉ”と蹴飛ばす夜もあったものが、今じゃあ ヌクヌクのゾロの懐ろへと自分からぎゅうぎゅうって潜り込んでる案配で。

  「………んにゃ?」

 目覚ましはまだ鳴ってなかったんだけれどね、鼻の頭がちょっぴり擽ったくて。目を開けたらカーテンを引いた寝室は、それでも随分と明るくなっていたから。ちょっと早いけれど、もう起きてても良いかなって思って…そぉっとベッドから抜け出そうとしたのに、
「んぅ…。」
 小さな温みが腕の中からスルリと逃げ出してゆくような気がしたのか、ぐっすりと寝ている筈な旦那様の頼もしい腕が…がっしと引き留めにかかった。
「あ、や…。///////
 ダメだってばって、頑張って もがいたんだけれど、あのね。顎の下、首元のくぼみのトコ。頬っぺが鎖骨の上へ触りながらだけど、誂えたみたいにお顔がポコッて嵌まっちゃうもんだから。頼もしい肩の上へ少しだけ乗り上げる格好で引っ張り上げられて、男らしくていい匂いがする懐ろに掻い込まれちゃっちゃうと、

  “ん・もう…。///////

 もうもう、ゾロってば。/////// 困るのはゾロなんだからねvv 二度寝しちゃうと、俺、いつもの時間に起きらんないのに…って。ぶうぶうと ぶうたれつつも、お顔は正直なもの。くふふvvと微笑いつつ、お布団を掛け直してもらって。大好きな懐ろの中、少し堅い胸板へうにうにと柔らかい頬を擦りつけながら、微睡みの中を漂って過ごすの。今だけは“小さい子みたい”で良いの。普段だったら“子供扱い”されるのはヤだって、ムキになって頑張るのにね? 現金でしょ? だって、力では敵
かなわないんだもん。離してくれないんだし、それにそれに凄っごく気持ち良いし………………。zzzzzz…。





 結局は、目覚ましが“じりりりりん”とけたたましく鳴ったので起こされて。こういう起き方って、無理矢理だからなかなか眸が明かないんだよねと、接着剤がなかなか剥がれないみたいな目許のままに、それでも むくりと起き上がって、よたよたと危ない足取りで寝室から出て行くのが…大体6時頃。

 “…別に寝ててくれても良いんだが。”

 ベッドに残された旦那様。実はとっくに眸が覚めていたのだけれど、ここは寝坊の振りでタヌキを決め込む。頑張って頑張って“奥様業”やら“PCインストラクター”やら、自分の“お務め”というものに励んでいる小さなルフィが、本当に一生懸命でいじらしいから。何でもかんでも待ち構えてたり先回りしたりという格好で過保護に囲い込むのではなくて、彼に任せ切ってみようと決めたのは、いつからのことだったけね。それまでは、自分がいない時に台所でガスコンロを使っちゃいけない、晩はなるだけ早く帰って来るから、お昼はランチを食べに行くなりしなさいとか。このマンションには滅多に入って来ないけど、怪しい人の訪問には居留守を使ってやり過ごすんだぞとか。小学生でも今時そこまで言われないぞというほど、禁止令をいっぱい掲げていたもんだったが、それだと何にも出来ないままだようと、信頼されてないことへ寂しそうなお顔をするようになって来た彼だったので。心配だったけれどぐっと堪えて、お料理を任せるようになり、電車に乗るほどの遠出もするようになったのでと携帯電話を持たせてやって。まるで幼い子供が、自分のカバン、自分の机、自分のお財布というのを持つようになって、親の視界の中から少しずつ離れて行動出来るようになってくのを、少しばかりハイペースで体感するみたいにして。こっちも気づかれないようにっていう我慢をして来て…もうどのくらいになるのかな。
“これも甘やかしになるのかな。”
 いやいや甘えているのはこっちなんだよなと思いつつ、キッチンの方からの物音を確かめると、やっと緊張を解いて体を伸ばす。今ではすっかりお料理も上手になったし、お隣りの奥さんが強引な訪問販売員に困っていたから“帰って下さい”って追い返してやったなんていう、こっちにしてみりゃギョッとするよな“武勇伝”を、温かな夕食とともに聞かせてくれたりするよになって。笑っても膨れても眸の離せない愛しい子。

  “可愛いんだから、しょうがないよな♪”

 甘やかしでも お惚気でも、どっちだっていい。すっかり凭れ切ってる甘えん坊だと思わせといて、実は意外と臆病者で。ゾロの負担にだけはなりたくないなんて言って、それが先に来る“健康管理”を怠らないほど、それはそれは頑張ってるルフィが、自分の側でも大切な宝物であり。彼のためならどんな我慢だって出来るさと、こちらも…我知らずそんな順番になって頑張る起爆剤にしているほどに、凛と張り切る糧にしている旦那様だったりするのである。………いやはや、お御馳走様vv





            ◇



 物心つくよりも早い頃から、ゾロはルフィにとっての 大好きな従兄弟のお兄ちゃんだった。どうかすると実の兄のエースよりも一緒にいることが多かったほどで、母が亡くなって少し遠くなる祖母の家へと引き取られてからも、休みになると必ず遊びに来てくれたゾロだったから、すぐ近所の同い年のお友達よりも優先しちゃうほど、ずっとずっと大好きだった。当時は今ほどの年の差もなかったのだけれど、それでも3つは年上だったにもかかわらず。父方の本家の道場で剣道ばかりに明け暮れてたゾロは、腕白小僧だったルフィが知ってる“面白いこと”を半分も知らなくて。オーソドックスな鬼ごっこや隠れんぼ“ダルマさんが転んだ”は何とか知っていても、色鬼や靴隠しなんてのは名前さえ知らない。うろこ雲は秋の雲だってこととか、雷は光ってから音がするまでが長いと遠いってこととか、リザードンはヒトカゲを育てたポケモンだとか。そんな“じょーしき”もあんまり知らなくってさ。(最後のは何?/笑)そんなゾロだったからね、夏休みなんかは、宿題を見てもらう代わり、セミの種類とか鉄砲草の笛の吹き方とかルフィの方からも教えてあげたもんだった。無口で判りやすく笑うことも少なくて。でもね、無愛想っていうんじゃなくて、ルフィには何でも手を貸してくれたし我儘も一杯聞いてくれて。寡黙? 何かキリッてしててクールで、剣道の道着が凄い良く似合っててカッコよかったゾロは、ルフィにとっても自慢の従兄弟で。


   ………………だから。


 学校の交換留学とかいうので外国に行くの推薦されて、どうしようって相談したら行った方が良いなんてゾロから言われたの、実は物凄くショックだったんだ。だって週末とかに簡単に逢えなくなる。電話だってそうそうは掛けられないんだし、ゾロも自分も筆無精だからね、手紙なんてもどかしいし。そうなっちゃっても、ゾロは寂しくないんだって判ったのがショックでサ。だから、半分は意地になってっていうかムキになって、俺だって平気だも〜んって振りを示したくて、それで早々と決めちゃって出発したんだけれどもね。やっぱりあんまり、手紙だ電話だっていうやり取りはないままに日は過ぎて。

   そして………もうゾロには一生逢えないような立場になっちゃって。

 あれって死んじゃったのと一緒なんだなって気がつくのに、実は半年ほどかかったんだよね。此処に居るんだってことを誰にも知られちゃいけない存在なんだってこと、よく判ってなかったからさ、何でサンジが寂しそうにひっそり暮らしていたのか、俺んコト辛そうな顔で見てたのかが判らなくって。いつまでも生きていられる体になったら不思議と、今日の続きの“明日”のことばかりを考えるようになった。今日を使って“明日はどうやって過ごそうか”ってことを思うのが毎日の仕事になった。大体でしか見えてはいなかったけれど、それでもそっちばかりを爪先立って眺めてた、遥かな先にある“未来”がなくなったようなものだから。明日を迎え入れるために、万全を期していなければならなくなったから。こんなにたくさん人はいるのに、自分はサンジとしか“同じ”じゃなくて。皆に置いてかれるばかりな身になったんだって思い知らされて。そんな頃から無性にね、ゾロに逢いたくて逢いたくて堪らなくなった。あんな別れ方したから余計にだ。ゾロの馬鹿って、俺なんかどうだって良いんだって決めつけて。ホントは平気じゃなかったのに、俺だって逢えなくなっても平気だなんて、嘘の強がりでそっぽ向いてて。そんな可愛げのないことをしたから、だから罰が当たったのかなって、サンジに内緒でこっそり泣いてた日だってたくさんあった。

  ――― だって、ゾロが大好きだったから。

 口数は少なかったけれどカッコよかったゾロ。それにね、困ったり悲しかったりするといつも、納得させる説得や理屈を考えるより早く、失くしちゃったのなら一緒に探そうねとか、痛かったなら悲しかったなら撫でてあげるとか、何にも言わないまま態度で埋めてくれる温かい人だったから。もういいようって、こっちが諦めても頑張ってくれて、融通が利かない奴ってエースが笑うと俺の方が悔しくなっちゃって。そりゃあ怒って“兄ちゃんの馬鹿っ”て言って、しばらく口利かなくなるほどだったもんな。だから、もう二度と逢えないんだってことが…俺はずっとこのままの姿なのに、ゾロはどんどん“先へ”と進んで行ってしまい、そのまま先に逝ってしまうのだと理解出来たその時はサ、日本に帰れないことよりも友達を作れないことよりも、何よりもそれが一番辛かった。喧嘩別れしちゃったけれど、ホントは大好きだったんだよって、せめてそれだけ言っときたかったなって。いつもいつもそれを一番に悔やんでた。

  ――― だからね、大人になったゾロに逢えた時は。

 ホント言うと そのままどうにかなっちゃいそうなほど、頭の中でも胸の裡
うちでも物凄い嵐が吹き荒れてて、体中が熱くなってて、そりゃあもう大変だったんだよ? こんな大人になるんだろうなって思ってた、背が高くて頼もしくってカッコいいお兄さんだったから。相変わらずに寡黙で融通は利かなさそうな、でもそんな頑固者の実直さが頼りにされてそうな、そりゃあ精悍で男臭い人になってたから。泣いちゃいそうになったの我慢するのが本当に大変だったんだからね。俺だよって言えないのが辛くって、でも、諦めるために逢いに来たようなものだったから仕方がなくて。一番嬉しいと一番辛いとを、一緒に飲み込まなきゃいけなくて。いよいよ素性がばれちゃったときは、これでもう本当に二度と逢えなくなっちゃうんだなって。諦めるのにまたこれから何年もかかるんだろうなって、そんな風に思ってたのにね…。







  「………ふぃ? ルフィ?」

 はにゃ?と。温かな手で そぉっと肩を揺すられて意識が戻る。ベランダに向いた大窓からすべり込む、低くなった夕陽の中で。広いベッドの上、半分に折られて斜めになってる布団に乗っかって、丸くなってた姿を見て。慌てて帰って来た勢いを、それでも何とか押さえて押さえて、そぉっと名前を呼んで揺り起こしてくれたゾロだったらしくって。うにゃ?っと 何とも素っ惚けた声を出しながら起き上がったのを見て、ただ転寝していただけだって判ったらしく、
「びっくりしたぞ?」
 厳しく寄せてた眉を下げ、はぁあ〜と大きな肩を落とすよにして息をつきつつ、やっとのことで安堵の表情になる。今から帰るよの電話には出ないし、帰ってみればこんなだし。てっきり…布団を取り込んでる時に立ち眩みでも起こして倒れたのかと思ったと。そうと言われて“ありゃりゃ ///////”と、口許を押さえながら赤くなるルフィだ。陽が短くなったこの頃では、布団も洗濯物も早めに取り込まないと、干してるんだか湿らせてるんだか判らなくなるからね。それでってフカフカなうちに取り込んだそのまま、ふかふかな上へコロンて転がって…そのまま寝ちゃったみたいで。あやや、ごめんね/////と赤くなってると、すぐ横に並んで腰掛けてたゾロの大きな手が頬に触れ、

  「………え?」

 浮かした親指の腹で、こしこしって目許を拭ってくれたの。え? え? 泣いてたってこと? 何か怖い夢とか…あれ? 見てた…の、かな?
「……………。」
 何にも言わないまんま、じっと切れ長の眸に覗き込まれて。でもでも、心当たりはないからって かぶりを振れば、

  「あ…っ。」

 膝の下へと腕を入れ、あっと言う間に ひょいって軽々抱えられて。そのままお膝へ引っ張り上げられちゃった。広くて深いゾロの懐ろは、まだスーツを着たままだったから…外気の冷たさとか電車の匂いとかをちょっぴり染ませていたけれど。風間くんトコのチョビのふかふかなお胸の毛並みみたいに、スーツの懐ろ、襟の合わせを誇らしげに押し開いて白いシャツが覗いてる頼もしさから、いい匂いと温かさが伝わってくるの。体の年の差が十歳近くもあるから余計に、小さな奥方だとすっぽりと収まってしまう、お気に入りのお膝の上。
「………。」
 やっぱり何にも訊かないまんま、でもでも…とっても落ち着ける。大好きなゾロ。そのまま舞い上がっちゃう、ドキドキする抱っこもしてくれるけど、そうじゃない“抱っこ”も知ってるし、こやってそれをしてくれるゾロ。頬を寄せた胸板の温みの奥から、かすかにかすかに鼓動の音がして。

  ――― 大丈夫だから。

 そんな風に宥めてくれるの。大切な人にはネ、ただ“好き好き好き〜〜〜vv”ってだけじゃいけないんだよって。大切だから心配するのは当然で、でも。大切だから…知らないことがあるのはイヤだからって、責めるみたいに詰め寄っての無理強いはしちゃいけないって、ちゃんと知ってる大人なゾロ。寡黙で取っ付きにくいって言われてたゾロだけど、ホントはね。聞かないまんまで受け止めてくれる、我慢強い“大きい人”だからなんだよね。言わなきゃ通じないようなことでもネ、まだ言いたくなきゃそれでもいいよって。自分でもよく判らないことなら、幾らでも待ってるからなって。そうやって黙って受け止めてくれる。後で聞いたら、
『ん〜〜〜、物によってはその場で聞きたくて堪らないことだってあるけどな。』
 サンジとチャットで長話ししてた後とか、ちょこっとイラッてなるけどなって。でも、それもまた しょうがないからサ。そんな風に正直に言ってくれる人なところも嬉しくって、

  “んもぉ〜〜〜vv //////

 あああ、いけないっ、せっかく買っといた吟醸酒、冷やしておくのを忘れてたっ。あ、ううん。あのね、ご飯の方は大丈夫だよ。タイマーセットしといたし、おかずは特選和牛の焼き肉フルコースにしたの。だって今日はサ、ゾロの誕生日でしょ? だから、今夜のメニューは、ゾロの大好きな冷酒と、黒毛和牛のハラミとロースとカルビの食べ放題にしたんだよvv サニーレタスもちぎってあるから、巻いて食べようね? え? 最近 野菜食べないのは俺の方だって? そんなことないもんっ。…そりゃあサ、お肉の方が美味しいなって思うけどもサ…。/////// うう…。頬っぺだけ? おでこだけ? ここにも・ちうvv


 自分からリクエストしておきながら、擽ったいようと すっかり元気にはしゃぐ奥方を。蕩けそうな眼差しで見やった、元全日本チャンプの剣士だった旦那様。どんな御馳走や美酒より何より、大切で愛惜しいこの小さな宝物さえあれば、終始ご満悦でいられるらしくて。相も変わらず欲の薄い、それは出来たご亭主であるようです。





   
HAPPY BIRTHDAY,ZORO! The darling of Luffyvv



  〜Fine〜  04.10.22.〜11.11.


  *このところ妙に出来すぎな旦那様の“蒼夏の螺旋”ゾロですんで、
   いっそ突き詰めちゃろうと思ったら、こんなものが出来上がりました。
   血糖値が上がられた方、歯が浮いて虫歯が悪化された方、
   誠にどうも すみませんです。
(おいこら)
   いやに日数がかかってるような後書きですが、
   実質は…2日ほどですかね?
   はい、あまりの甘さに途中で投げてました。
(こらこら)
   どうかしたら“蜜月まで〜”の二人よりも
   ラブラブラブvvで甘い人たちになりつつあるみたいですね。
   こんなのゾロじゃないと思われた方、
   その正しい判断力を大事になさって下さいませね?
(おいおい)

ご感想などはこちらへvv**

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